し、他も迷惑と思います。これはお断わりしたいものです」
とお答えをしました。
「君にそういうことをいわれた日には甚《はなは》だ困る。君はひどく謙遜して、自分は器《うつわ》ではないといわれるが、現にこの私がその美術学校の教師をやっている。あなたも私も生い立ちは同じようなものじゃありませんか」
 竹内さんはこういっておられる。
「いや、そうは思いません。あなたはいろいろ古いことなども能《よ》く穿鑿《せんさく》して知ってお出《い》でで、なかなか学もある方だから、あなたは適しております。自分はそうは思いません」
といいました。
「それは、あなたの勘違いというものだが、それを今ここで議論して見たところで初まらない。とにかく、私は岡倉さんの使者でお願いに来たのですが、君が、承知されないとなると、私も使者に立った役目が仕終《しおお》せられないので岡倉さんに対しても面目ないが……それでは、とにかく、右の返辞は君から直接岡倉さんへしてくれることにして下さい。今日一つ岡倉さんの家《うち》へ行って、逢った上のことにして下さい」
「では、そうしましょう。岡倉さんの家は何処《どこ》ですか」
「池の端茅町で、山高
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