らしいものですよ」
というような訳。
 そこで、私も、良きモデルを得ることに苦心した前述の話などしまして、さらにこの次狆を彫る時には、右の米田さんの狆を是非見せて頂きましょうなど話しましたことであったが、それにつけても考えられることは、モデルを選むということは、世間を広く見た上にも広く、深く探し求めた上にも深く探究しないで、好《い》い加減の所で、もうこれで好いと自分一人決めにするようなことがあっては意外な欠陥を製作の後に残す悔いがある。これは注意の上にも注意すべきことだと深く感じたことでありました。

 こういう事などもあって、私は、どうも、今度の製作には、まだ充分という確信が持てない。それに自分も審査員に加わっているにもかかわらず、審査の結果は金賞になるとの事。金賞といえばこの会では上のない賞で、またこれを貰う人はほかにないという事でもあり、どうも、自分の確信のない作に、金賞とあるのは少し過賞過ぎるように感じられて心苦しくなりましたから、これはやめにしておもらいしたいと、その夜、岸、塩田氏その他の幹部学芸員のお集まりの処で、「薄々承りますと、私の作は金賞になるとかいうことでありますが
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