彫りになる前にその事を私が知っていたらよかったが残念なことをしたと思いますよ。実をいいますと、このお作はどういう狆をモデルになすったか、なかなか狆としては名狆の方ではあるが、どうも大分年を老《と》っているように見受けます」
こういう答え。私は後藤氏の言葉を聞いている中に、なるほどさすが馬専門の人で、動物を平生《ふだん》からいじりつけているだけに、なかなか詳しい。この狆を老年と見た目は高いと思いながら、黙って聞いていますと、氏は言葉を次ぎ、
「それで、残念なことをしたと思いますのは、このモデルの狆よりも、もっと上手《うわて》で、恐らく日本一の名狆と思われる良《い》い狆を私の知り合いのお方が持っておられます。その狆をあなたに参考としてお見せしたら、必ずこの作以上のものがお出来だったろうと、只今、感じながら拝見している処でありますが、惜しいことをしました」
「……御尤《ごもっとも》のお言葉で……その狆は誰方《どなた》がお持ちなんですか」
「それは侍従局の米田さんの狆です。何でもよほど高価でお求めになったとかで、東京にもこれ以上のものはまずなかろうという評判で、年齢もまだ若し、それは実に素晴
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