だって教えてくれました」
 国さんはいっている。
 私が「種《たね》、種」って呼んで見ますと、やがて、のっそりと起き出て来ました。出たのをよく視《み》ますと、まるで葉茶屋の狆とは雲泥万里《うんでいばんり》の相違で、同じ狆とはいいながら、似ても似つかぬような風采です。のそりと畳の上を歩く音がバサリというように聞えます。バサバサと畳の音がするのです。そうして悠々然と四方《あたり》に人もおらぬといった風に構えている処は鷹揚《おうよう》といって好いか、寛大といって好いか、とにかくその迫らぬ態度は葉茶屋の狆のチョコマカと愛嬌あって活溌なのとは比べもつかぬ。もっとも、この戸川さんから来た狆は大分|年老《としと》っているので血気|旺《さか》んというのでないから、その故もあるか、私たちが狆らしい狆だと思う種類とは掛け離れたものに見えます。しかし、どっちが好《い》いとも分りません。どっちが好いとも分らないが、戸川さんから来た方は指と爪《つめ》が長くて、指と指との間に毛が一杯|生《は》えている。それが歩くとバサリという。尻尾《しっぽ》の毛は大鳥毛のようで高く巻き上がって房《ふっ》さりしており、股《もも》の
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