幕末維新懐古談
好き狆のモデルを得たはなし
高村光雲

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)御側《おそば》御用

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)数等|上手《うわて》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)つまっ[#「つまっ」に傍点]て
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 合田氏のはなしを聞けば、なるほど耳寄りな話である。
 合田氏は、私の今使っているモデルの狆を口ではそれと悪くはいわないが、この狆よりも数等|上手《うわて》の狆がいることを話された。それはツイ先月の話のことだが、合田氏の知人に、徳川家の御側《おそば》御用を勤められた戸川という方があって、その御隠居が可愛がった一匹の狆があった。それはなかなかの名狆であるのだが、戸川家も世が世で微禄され、御隠居も東京を引き上げ、郡部へ引っ込むについて狆を田舎まで伴《つ》れて行くのも大儀|故《ゆえ》、何処《どこ》か好い貰い手があれば呈《あ》げたいものというので、合田氏へも話しがあったが、合田氏も狆を飼って見る気もないので話はそれ切りになってしまったのである。今少し早かったら、注文通りのお手本があっ
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