てく四谷から、何か重そうなものを背負わされて戻った。見ると四角張ったものは狆の箱で、箱ぐるみ貰って来たという訳、箱だってなかなか手を尽くしたもので、きりぎりす籠《かご》の大きいような塩梅《あんばい》に前へ竹の管《くだ》の千本格子《せんぼんごうし》が這入《はい》っている。箱を座敷へ上げて中を見ると、動物がその格子の内に寝ころんでこっちを見ておりました。
その動物を見ると私は驚きました。
というのはその権識《けんしき》が実に異《ちが》います。見ていると気味が悪い位です。その目が素晴らしく大きく鼻と額と附《く》っ着いて頬《ほお》の毛が房《ふっ》さり達筆に垂《た》れ、ドロンとした目をしてこちらを見ている所をこっちから見ると、何か一種の怪物のような気もしてどうも変なものだと思いました。
「どうもこれは妙だね」
「どうも妙なものですね」
家《うち》のものもそういって見ている。
私は近寄って箱の蓋《ふた》を明けましたが、直ぐに飛び出して来ようともしません。寝転《ねころ》んだままで悠々《ゆうゆう》としている処、どうも動物とはいえ甚だ権が高い。
「名は何んというのかね」
「種《たね》っていうん
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