風呂敷を持って出掛けました。近所のことなり、若い者の足で間もなく帰って来た。話を聞くと、狆は荒物屋にはいないということ。
「狆は、もういないのかね」
「ええ、狆は荒物屋にはいません。ですが、四谷《よつや》の親類の方にいるんだそうです」
「四谷にいると、本当に」
「いるんだそうです。それで荒物屋さんの御主人が、私が附手紙《つけてがみ》を四谷へ書いてあげるといって、それを貰って来ました。これを持って四谷へ行けば、狆は多分貰えるだろうということです。私は直ぐ四谷へ行こうと思いましたが、ちょっとお知らせしてからと思って帰って来ました」
 国さんはこういいながら立ったままでいる。それがまだ昼前のことで、これから四谷へ行くは大変、お午餐《ひる》をたべてからというので、早昼食《はやひる》をたべて国さんは四谷へと出掛けて行きました。

 国さんは午後四時頃に帰って来た。
 見ると、何か嵩張《かさば》る箱のようなものを背負《しょ》って、額に汗を掻《か》いて大分|疲労《くたび》れた体《てい》である。まだ馬車もなく電車は無論のこと、人力《じんりき》に乗るなど贅沢《ぜいたく》な生計《くらし》ではないので、てく
前へ 次へ
全8ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
高村 光雲 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング