と思い、……もっとも、いよいよとなれば、そうする考えでもいましたので、私はさらに押し返して、
「……実はまだ詳しいことも申し上げず、いきなり狆を拝借したいと申しては籔《やぶ》から棒でさぞ変にお思いでしょうが、私は、今回、皇居御造営について、貴婦人の御間《おま》の装飾に狆を彫刻することをお上《かみ》の方から命令されましたので、そのため、いろいろ好い狆を見本に探《さが》しておりますようなわけで、貴店《こちら》の狆がいかにも狆らしく美事であると、平常《ふだん》からも思っておりましたので、今日、実はお立ち寄りして拝借を願ったような訳なので……」
と、話し出しますと、細君は二度|吃驚《びっくり》というような顔をしている。
「まあ、そうで御座いますか。皇居御造営になるとか申すことは私どもも噂《うわさ》で承知しておりますのですが、すると、貴君は狆を彫って貴婦人のお間へそれをお納めになるのですか」
「そうなんです。それで鳥屋へも二、三軒行って見ましたが、どうも気に入った狆がおりません。とても、貴店《こちら》のに比べると狆のようにも見えませんので……これが、その彫刻をして売り物にでもしますのなら、気に入
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