師匠は高声で、笑い声も交じって奥で話していられる。私は店にいて、聞くともなくそんな話しを聞いて、あの御婦人も今度田舎のお武士《さむらい》へお片附きになったかと思ったことでありました。
その後、幾日かを経て、三枝未亡人はまた東雲師宅へ参られ、申すには、東雲さん、今日は妙なことをちょっとお願いしたいので参りましたが、実はこれを貴君《あなた》に始末して頂こうと思って持って参じましたといって風呂敷包《ふろしきづつ》みを解かれると、中に絹の服紗《ふくさ》に包んだものが米ならば一升五合もあろうかと思うほどの嵩《かさ》になっている。それを拡《ひろ》げると、中から出たものが無数の紙片の束であった。
「これは綾子が宅におります時分、長い間掛かって丹精して書きためたものですが、仕舞って置くにしても置き所もなし、焼いて棄てるにしては勿体《もったい》なし。貴君は仏師のことで、こういうものの始末はよく御存じと思いますので、何んとか好い方法で始末をなすって下さい」
との事。
師匠は何んであるかと、その物を見ると、それらの紙片は短冊《たんざく》なりに切った長さ三寸巾六、七分位の薄様|美濃《みの》に一枚々々
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