、とにかく、お上品で三指式《みつゆびしき》に行こうというところへ、一方は西国大名の中でも荒い評判の鍋島《なべしま》藩中のお国侍、大隈八太郎といって非常な論客で政治に熱狂していた志士の一人。その時は既に大官を得て出世しているとはいえ、万事が粗野放胆で婚儀のことなど礼節にかかわらず、妻を娶《めと》るは品物のやり取り位に思っていたであろうから、お品の好い御殿風な三枝未亡人を驚かしたも無理ならぬことと思われます。何んでも人力車《じんりきしゃ》に書生《しょせい》をつけてよこして、花嫁|御寮《ごりょう》を乗せて、さっさと伴《つ》れて行ったりしては、お袋さんも娘の出世はよろこんでも、愚痴の一つもいいたくなって、東雲師の宅へ出掛けてお出《い》でになったものと見えます。
東雲師は、黙って話しを聴《き》いておられたが、
「なるほど、しかし、そりゃ仕方がありませんよ。東京の方と、田舎《いなか》の人とでは、どうも……」
など挨拶をしている。
「でもねえ、何んだか、私は不安心ですよ。綾が取って食べられそうな人なんで……」
「いや、御隠居様。今の世の中は、そういう男が役に立つのでございますよ。御安心なさいまし」
前へ
次へ
全22ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
高村 光雲 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング