要件のことで師匠の意を受けてお使いをしたり、また師匠が妻君に話していること、時々、私に愚痴《ぐち》を洩《も》らされることなどで、この結婚が破れるのであろうということを予想しておりました。後に至っても偶々《たまたま》師匠が当時のことを私に話して、本当に媒酌人をするということは重大な責任のあることを語られましたが、この時の心配苦労の一通りでなかったことが推察されました。

 さて、その後、お綾さんが里へ帰られ、間もなく大隈さんへ貰われることになったのですが、この関係は私は知りません。また、師匠もこの時のことには立ち入っておりませんでした。しかし、或る日三枝未亡人が師匠宅へ見えられてお綾さんのその後のことについて話しておられました。
「……実は、綾のことですが、今度お国のお侍で大隈という人から是非|慾《ほ》しいというので、遣わすことに承諾しましたのですが、まるで娘を掠奪《さら》われるような工合で、私も実に驚きました」
と、愚痴交じりにいっておられた所を見ると、未亡人も承諾はしたものの、先方の行方《やりかた》が乱暴なので迷惑に感じたような口裏であった。
 これは一方は直参《じきさん》のお旗下で
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