もうとも思わず、また添い遂げ得られようとも思われぬ。どうで、添い遂げられぬものなら、一旦、自分の妻となった女であっても、その人へ傷を附けたくない。とこう考えられたものと見える。それで御夫婦の間のことは極《ごく》疎遠であったらしい。夫婦のかための杯《さかずき》はあったが、夫婦の語らいはなかった。で、お綾さんが里へ来て、その事をお母様へお話をしたものらしい。
 三枝未亡人がこの娘の話を聞くと、意外に感じたことは道理《もっとも》なこと。これはまず何より媒酌人《なこうど》の東雲さんに話すが好《よ》かろう。この嫁入り前より何か他に思い込んだ婦人でもあるのではないか。もしそういう事なら今の内引き取った方が双方のために好かろうというので、御母様が来て話されましたので、東雲師もこれは困ったと思ったが、貨一郎氏にも深い考えあってしている心持ちが分ると、夫婦の中へ立ち入って好い工合に纏めることも出来ずそのままになっている中《うち》とうとう柏木未亡人方にも何か都合があって、双方話合いでいよいよ破談となってお綾さんは里へ引き取られることになりました。
 三枝家の方では、婿の貨一郎さんの真意のある所が分りません
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