方は心得ておったものでありました。それで、今度もお伴を仰せつかって師匠の後から「坊主そば屋」へお伴をして参ったのでありました。
かれこれする中《うち》に柏木貨一郎さんが養母とともに見える。三枝のお嬢さんお綾さんには母者人《ははじゃびと》のおびく[#「びく」に傍点]さんが附いて見えられる。二階で落ち合って蕎麦《そば》を食べて見合いをされた。一方は水の垂《た》るような美男、一方は近所でも美人の評ある旧旗本のお嬢さん、まことに似合いの縹緻人|揃《ぞろ》いのことで、どっちに嫌《いや》のあろうはずなく、相談はたちまち整ったのでありました。この時、お綾さんは確か十八で貨一郎さんは二十五位であったと思う。私はお綾さんよりは一つ年下で十七であった。小僧とはいっても最早|中《ちゅう》小僧で、今日でいえば中学校の青年位の年輩であるから、記憶などは人間一生の中で一番確かな時分――見合いというものは、どういうことをするものかなど恐らく好奇心もあったか、婿《むこ》さんの貨一郎さんも、お嫁さんの方のお綾さんも、今日でもその美しい似合いの一対であったことがハッキリと記憶に残っております。
そこでこの縁談は整い
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