機関であるのですが、この事が発表になると、牙彫の方でも谷中派の連中がまずその組合というものを組織し出したのです。それはたとえば、牙彫業者がここに三百人あるとして、その三分の二以上の人数――すなわち二百人が結托して組合を組織すれば、その組合というものは、その業務に従事しているすべての人の上に権力を働かすことが出来るのであって、よし、他に不賛成者があるとしても、少数者はその規則の下に服さねばならんといった訳であった。もし不賛成者があれば、市内から離れて郡部へ行かねばならんというのである。その組合の規約が随分不条理なもので圧制的であると思っても、差し当って職業のことに影響するから、嫌《いや》でも入らなければならない。よくよくいやならば郊外へ出るよりほかはない。と……こういう有様であった。

 そこで、谷中派の大将株の人たちは、自分側の方で、この組合を作って通過させ、権力を握りたいものであるが、しかし、牙彫界を見渡したところで、前申す如き有様であるから、どうも頭が閊《つか》えている。自分たちの好き勝手な真似《まね》ばかりをするわけにも参りません。それで彼らは自分たちの方の幕下《ばっか》のものを
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