れる方のを三本か四本位出して、蝋燭四本の物なら二本へらして薄ぐらくして置く、すると買い手の方は要求しているものが其所にあるから、値を聞く。売り手は他店にもう品切れと踏んでいるから、吹っ掛けて出る。一声負けたところで、利分は充分。それに商売がしやすいのであります。そうして売れないものは無理に売ろうとせず、二の鳥を俟《ま》ち、三の酉があればそれをも俟つという風で、決して素人のように売り急ぎをしないのだそうであります。際《きわ》どいのは、もの仕舞い際になると、蝋燭(薩摩《さつま》ろうそく)やカンテラを消して店を方附け、たった一本位出して置いて、客がつくと、それを売る。もうないのかと思うと、もう一本ある。他の客が奪うようにして買って行く。段々とそうして余分に儲けるなどなかなかその懸引《かけひき》があるものだといいます。けれど、こっちはそこまではやれない。この商売はほんの駈け出しだから、何んでもかまわず早く売りたくて仕方がなかったものでした。
私たちの店は今も申す通り、大きい店の袖にあった跳《は》ね出しの店です。この方が割方《わりかた》安くてかえって都合がよろしい。大分、もう売って行ってほと
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