で抛《なげう》って置いてある。商売用の葛籠《つづら》の蓋《ふた》を引っくり返して、その中へ銭をバラで抛《ほう》り込んで置く。そんな投げやりなことをして好《い》いのかと私は心配をして父に注意すると、
「何、これが一番だ。入れ物などに入れて置いては、際《すき》をねらって掠《さら》って行かれてしまう、こうして置けば奪《と》ろうたって奪れやしない」
と、自分の経験を話したりして、なかなか巧者なものである。師匠の店で彫り物ばかりしている私にはなかなか珍しく感じました。
さて、夜が明けて当日になると、昼間《ひるま》はなかなか声が出せない。黙って店にぼんやりしているようなことではいけないので、何んでも縁喜で、威勢がよくなくっちゃならないのですから、呼び声を立てないといけない。それがなかなか私などには出来ません。
しかし、何時《いつ》までも迷惑な顔をしておどおどしていれば何時まで経っても声は出ない。思い切ってやればやれるものでこういう処へ出れば、また自然その気になるものか、半日もやっていると、そういうことも平気になるのはおかしなものです。
当日の夜はまた一層の人出で、八時から九時頃にかけて出盛《
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