いので、皆無理をして店を拵える。私たちの店は、毎年店を出す黒人《くろと》が半分池の上に丸太を渡しその上に板を並べ、自分の店を拵えてその余りを、私の父が借りました。場所がよくて、割合に安いが、実に危険です。それは隣りの店の余りで、池の上に跳ね出しになっているのです。前は手欄《てすり》で、後は葭簀張《よしずば》り、大きいのから高い方へ差し、何んでも一体に景気の沸き立って見えるように趣向をする。縁起をかつぐ連中は午前一時頃から押し掛けて来る。いの一番に参詣《さんけい》して一年中の福徳を自分一人で受ける考え――朝はちょっと人が薄く、午前十時頃からまた追々雑踏するが、昼の客は割合にお人柄で、夕刻から夜に掛けてお店者《たなもの》並びに職人のわいわい連中が押して来て非常な騒ぎとなる。何んでも一年中でこの酉の市ほど甚《ひど》い雑踏はないのだから、実に無量雑多な人間が流れ込んで来る。とにかく、生馬の目でも抜こうという盛り場のことで、ぼんやりしていては飛んだ目に逢うのですが、私の父は、そういった人中《ひとなか》の商売は黒人《くろと》のことですから、万事に抜け目がなく、たとえば売り溜《だ》めの銭などは、バラ
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