い字で胡粉《ごふん》の白い所へ、筆太《ふでぶと》に出し、千両函は杢目《もくめ》や金物は彩色をし、墨汁で威勢よく金千両と書くのです。
こんな風だから、相当これは資本が掛かります。なかなか葦の葉の玩具のように無雑作には参らぬ。日に増し寒さが厳しく、お酉様《とりさま》の日も近づくと、めっきり多忙《いそが》しくなるので、老人は夜業《よなべ》を始め出す。私も傍《そば》で見ている訳にいかず自然手伝うようになる。家内中、手が空《あ》いた時は老人の仕事を手伝い手伝い予定の数へ漕《こ》ぎ附けました。
当日が来る。
お酉様の境内、その界隈《かいわい》には前日から地割《じわり》小屋掛けが出来ている。平生《ふだん》は人気《ひとけ》も稀《まれ》な荒寥《こうりょう》とした野天に差し掛けの店が出来ているので、前の日の夜の十二時頃から熊手を籠長持《かごながもち》に入れて出掛けるのですが、量高《かさだか》のものだから、サシ[#「サシ」に傍点]で担《かつ》がなければなりません。その片棒を私がやって、親子《ふたり》で寿町の家を出て、入谷《いりや》田圃を抜けて担いで行く。
御承知の通り大鷲《おおとり》神社の境内は狭
前へ
次へ
全11ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
高村 光雲 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング