縁先へ立てて見せる。なるほど、自然の色を持った若葦の浅緑の生々《いきいき》した葉裏などにその夏虫のとまっている所は、いかにもおもしろい。異《おつ》でもあり、妙でもあって、とても、市中の玩具屋《おもちゃや》を探して歩いてもある品でない。この妙な思い附きが一つの趣向で老人はすっかり好い気持になって、それを持って、彼岸の人出する場所、あるいは六|阿弥陀《あみだ》のような所へぶらぶらと行って見るのであります。時候はよし、四方の景色《けいしょく》はよし、木蔭《こかげ》の石灯籠《いしどうろう》の傍などに、今の玩具を置いて其所《そこ》に腰打ち掛けて一服やっている。通り掛かりの参詣《さんけい》仲間の人たちが、ふと目を附け、これは異《おつ》だ、妙だといってる中に、何んとなく好奇心にそそられて、その赤蜻蛉のを私に一本、その蝶々のを私に二本というように、つい興がって買う気になるのです。こうなると老人の得意はさぞかし、手間は相応掛かっても、元が掛からない手細工ですから、幾金《いくら》にしても儲けはある。二時間、三時間、気の向いた道を景色を眺めて散歩している間に幾金《いくら》かのお小遣いが取れるのであります。

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