です。その種類は蜂《はち》、蝉《せみ》、鈴虫《すずむし》、きりぎりす、赤蜻蛉《あかとんぼ》、蝶々《ちょうちょう》、バッタなどですが、ちょっと見ると、今にも這《は》い出したり、羽根をひろげて飛び出そうというように見えます。
「どうだ。本当の赤蜻蛉に見えるだろう。このバッタはどうだ。この脚の張り工合が趣向なんだ」
などいって、障子《しょうじ》の桟《さん》へなど留まらせると、本当に、赤蜻蛉とバッタが陽気の加減で出て来ているように見える。老人は得意になって、そのままぶらり何処かへ出て行ってしまう。何処へ行かれたかと思っていると、やがて帰って来られる。手に青々とした葦を持っている。何処か浅草田圃《あさくさたんぼ》の方へ行って取って来たのでしょう。
「葦を取って御出《おい》でなすったね。それをどうするのですか」
「これか、これが趣向なんだ」
老人は細工は流々《りゅうりゅう》といったような自信のある顔をして、またぽつぽつ仕事を初め出します。何をするのかと思うと、その切って来た葦の葉へ、今のバッタや赤蜻蛉などを留まらせて、と見、こう見している。
「これは、どうだ。異《おつ》だろう」
老人は葦の葉を
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