沢田は気の毒がって、
「それでは、手間が掛かる一方で、とてもお引き合いにはならんでしょう」という。
「いや、まずその日の生計《くらし》が家業をこうしてやっていて行《や》って行けるのだから文句もありません」
など答えると、沢田は、
「それは、そうでしょうが、あなたが、もし、象牙をおやりなさると、そりゃ、立派な手間が払えますのですが……こちらも商売ですから、見す見すあなたがお手数をかけて下すったものでも、木彫りでは儲《もう》けが薄いので、碌《ろく》な手間をお払い出来ません。手間が細かくって、手数ばかり掛かる木彫りよりか、一つ、どうです。象牙の方をおやんなすっちゃ……」
など、親切にいってくれますが、私はぶきようで象牙などは到底彫れませんと断わり、碌にその方の話の相手にはならず逃げておりました。

 その後、或る日のこと、沢田の奉公人が、風呂敷に二尺五、六寸ほどもある長い棒を包んだものを持って来ました。
「これをお預かり下さい。後刻《のちほど》主人が参りますから」
 そういって帰って行きました。
 私は一目見て、その風呂敷の中には、何が這入《はい》っているかが分りました。それは無論象牙の材で
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