ました。この人は以前蔵前の師匠の家にいた当時、あの珊瑚樹に黒奴のとまっている仕事をたのまれた関係で、旧知の人でありますから、久しぶり対面しますと、「一つ木彫りをお願いしたい」ということである。今時分木彫りをわざわざ頼みに来るのは不思議のようであるが、この沢田は貿易物の他に、地《じ》の仕事をも請け合うのですから、私に木彫りを頼みに来たのであった。布袋《ほてい》を彫ってくれ、というので、早速私は彫りはじめたが、この製作は、私がいろいろ西洋彫刻のことにあこがれ、実物写生によって研究努力した後の木彫りらしい木彫りであったから、私も長々研究の結果によって充分心行くような新しい手法をもって彫り試みたことであった。もっとも、図は布袋であるが、従来の仏師の仏臭を脱した一つの行き方をもってこの布袋を彫り上げたのであった。
そこで、沢田へそれを届けると、何金《いくら》お礼をしたら好いかという。製作の日数の掛かっただけ一日一円という割にして私は報酬を貰い受けた。
その次は魚籃《ぎょらん》観音を一体、それから三聖人(三つ一組)を彫った。これらも実費だけを受け、決して余計な報酬を得ようとはしなかった。それで
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