ている彼《か》の増減自在の「脂土」のことにも思い到《いた》り、手法は異《ちが》うにしても、蝋でやることも面白からん、これは大いに彫刻のたよりとなるであろう。初めての仕事なれど、何も経験である。行って見ようかと私の心は動いて来ました。
 それに勝次郎という人の仕事の上手であることをも予《かね》てから知っており、この人と一緒に仕事することは、いろいろ智識を開くことにもなろう。また仏師の仕事と異《ちが》って、鋳物の方になると、思いもよらぬ面白い仕事をするかも知れない。何も修業だ、とここに決心しまして、承知の旨を答えました。
 大島老人は大いに喜び、早速、明日《あした》から来てもらいたいというので、まるで、足元から鳥の立つような話でありました。

 さて、仕事に掛かって見ると、なるほど、彫刻の土台があることだから、出来ないことはない。蝋を取って指でひねって物の形を作る……なかなかこれは面白いと思う。二日三日と経《た》つと存外手に入って来る。
「それ見なさい。私のいった通りでしょう」
 大島老人にこにこ笑っている。
 かくて如雲氏とともに毎日仕事を励み、とうとう十四年出品の作物を鋳物に作り上げて
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