、増減自在でかつ幾日経っても軟《やわ》らかなままであるという「脂土」のことを考えると、どうも、その土が至極のものと思われる。
「どうだろう。その脂土というものは売り物はないだろうか」
 こう私はその話をした人に聞きますと、
「そりゃ、売り物にはないだろうが、工部学校から、どうかすれば出ないものでもあるまい、しかし非常に高価なものだそうだ」
「高価といってどの位するものだろうか」
「一寸四方一円位だそうな」
「なるほど、それは高い。とても我々の手にはまあ這入《はい》らない」
 私は残念ながら、こういうよりほか仕方がありませんでした。が、どうも、その土のことが気になってしようがありませんでした。
 その後、或る日、工部学校の前を通り、ふと見ると、お濠《ほり》へ白水が流れている。
「アア、これだ、これが石膏というものだな」と私は思いました。
 それで、またその石膏が脂土と同じように私の憧《あこが》れの種《たね》となりました。

 さて、私はこうして一方には西洋彫刻のことに心を惹《ひ》かれ、一方では自然の物象について独《ひと》り研究しつつ、相更《あいかわ》らず師匠の家に通って一家の生計をいそし
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