んでいる中《うち》、前述の横浜貿易がこの一、二年間位の中に恐ろしい勢いで盛《さか》り出して来ました。
師匠の許《もと》へは米沢《よねざわ》町の沢田という袋物屋から種々《いろいろ》貿易向きの注文が来て、その方がなかなか多忙《いそが》しくなる。今までは仏様専門であったが、今は不思議なものを彫る。たとえば、枝珊瑚樹《えださんごじゅ》を台にして、それに黒奴《くろんぼ》が大勢遊んでいるようなものを拵《こしら》える。枝珊瑚の根の方を岩にして、周囲《まわり》を怒《いか》り波《なみ》と濤《なみ》とを現わし、黒奴が珊瑚の枝に乗って喇叭《らっぱ》を吹いているとか、陸に上がって衣物《きもの》をしぼっているとか、遠見をしているとかいう形を作る。それは黒檀《こくたん》で彫るので、珊瑚の赤色には好《よ》くうつるので、外国人向きとしてなかなか評判よろしく能《よ》く売れるという。それで職業的にはまずこうしていても生活の助けとはなるが、しかし、私の実物写生の研究と西洋彫刻に対する憧憬《どうけい》は少しもゆるみはせず、どうかして、一新生面を展《ひら》きたいものである。このまま、こういうことばかりしてはいられないという不
前へ
次へ
全5ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
高村 光雲 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング