》って行く処を見ると、余り上手なお医者さまとは受け取れませんなど話が合う。私は、そういう噂などチラチラ小耳に挟《はさ》む所から、或る日、改めて古川医師に師匠の容態を承ると、
「今日の処は、師匠の病気はしのぐ[#「しのぐ」に傍点]時である。直す時機はまだ来ない。ここ暫《しばら》くを通り越して、さて曙光《しょこう》を見た処で、初めて薬が利《き》くので、それから漸次快気に向うわけであって、今日の処は、拙者はそのしのぎ[#「しのぎ」に傍点]をつけている。気長に、鄭重《ていちょう》に、拙者が引き受けてやれば、万《ばん》、生命に係わるようなことはない。しかし、薬は必ず油断なく服《の》ませてくれ」
 こういう古川医師の返答。私も尤《もっとも》のことと思い、何分ともよろしくと申し、この上はこの人の丹精によって師匠の一命を取り止めるより道もないことと観念致しおった次第であった。
 ところが、ここに一つ困ったことが起った。
 それは或る御殿に勤めていたとかいうお婆さんがあって、その老婆は、ただ、※[#「てへん+(「縻」の「糸」に代えて「手」)」、141−12]《さす》るだけにて人の病気を癒すという。それを
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