われぬ。重大な容態は我々素人にもそう思われるようになったのであります。
 それで、弟子は四人ありますが、店の方の仕事のことがありますので、昼の中《うち》は附いておられず、奥の方では皆が附き切りになっている。師匠の家は親戚《しんせき》はない。一家内師匠をのけてはすべてが婦人で、妻君、お悦さん、お勝さん、それからおきせさんとこの四人が附き添い看護をしておられるので、私は、いろいろ師匠の病気についての看護のことに心附いたことがあっても、そう深く奥のことにまで立ち入って行くわけにも行きませんから、ただ、ひたすら、師匠の病気の少しにてもよろしくなることを祈っている次第であった。

 しかるにここに師匠の家の筋向うに眼鏡屋があって、その主人がちょうど師匠と同じような脚気に罹って寝ていました。近所ずからのこと、また同病のことで、何かと奥の人たちと往復して、平生《ふだん》よりもまた近しくなった処、眼鏡屋の妻君のいうには、私の宅でも柳橋の古川さんに掛かっておりますが、どうも、さらに験《げん》が見えません処を見ると、あのお医者は籔《やぶ》の方ではありますまいかなどいう。こちらでも、どうも、ますます重《おも
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