っている師匠も我《が》を折って、
「日本人と毛唐人との思惑違いというのなら話は分る。では、もう一度やり直して見よう」
ということになりました。私も傍で聞いておって、なるほど、ベンケイのいう所至極|道理《もっとも》であると思わぬわけに行きませんで、よく、先方の意味が了解された気がしました。
ベンケイが帰ると、師匠はさらに私に向って、もう一度やり直しを頼むという順序となった。そこで、今度は私も一層心配だが、先方の意のある所が充分|腑《ふ》にも落ちていることでありますから、今度は思い切ってこなし[#「こなし」に傍点]て、下絵には便《たよ》らずに自分勝手にやって退《の》けたといっても好い位に大胆に拵えました。つまり思い切りこなし[#「こなし」に傍点]てから唐子の服をつけさせるという寸法に彫って行ったのです。かれこれ半月ばかり経《た》って、まず自分の考え通りに出来たから、師匠に見せました。
「なるほど、これは好《い》い。これならベンケイが見てもきっと気に入るだろう」
というので、先方へ知らせる。直ぐベンケイが来て、一目見て、
「これは結構、もう客に見せなくても、これなら大丈夫。私が責任を持ち
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