はない。向うから頼みに来たのだ。いやならよすまでのことだ。唐子には唐子の約束があるんだ。しかも、この下絵は楓湖さんがつけたのだ。毛唐人に日本の彫り物が分ってたまるものか」など、そこはいわゆる名人|気質《かたぎ》でなかなか一刻である。私も、気を張って製《こしら》えた雛形が落第とあっては師にも気の毒なり、第一自分も極《きま》り悪い。
「どうも案外な結果になって相済みません」というより仕方ないのでした。ところが師匠は、「お前の粗忽《そこつ》ではない。俺《おれ》が好いと思うからこれで結構といったのだ。俺の責任だ。お前が心配をすることは一つもない。向うの人間が分らず屋なんだ」
と、一時は気をわるくしても、私のことは、こういって、サッパリした人ですから、怒った後は笑っている処へ、二時間ほどして再びベンケイが一人でやって来ました。師匠の不満な顔を見ると、にこにこしながら、
「先刻はお気に障《さわ》ったかも知れないが、客が素人《しろうと》で彫刻を見る眼がないから気に入らない風を見せたのですが、実は、いうまでもなく、あの雛形は大変|旨《うま》く出来てるんです。けれど、単に外見の上から形が少し気に入らない
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