の下絵によって一尺位に彫り上げ、それを師匠に見せますと、これはよく出来たという。これならばベンケイに見せてもよろしかろうというので、その旨を報《しら》せると、或る日、アーレンス商会のその注文主のお客と、それからベンケイとほかに一人で三人が馬車に乗ってやって来ました。で、早速下彫りを見せますと、案外で、どうも先方の気に入らぬような風である。何か互いに話し合って批評をしているが、その客人と覚しき人の表情を見ても気に入っておらぬということが私たちにもよく分る。そしてベンケイの通弁で大体を聞くと、どうも、ずんぐり、むっくりしているのが客の気に入らないのだという。つまり、ぶくぶくしていてはいけないので、もっと、すっきりと丈がすらり高くなくてはというのである。師匠はそれを聞いていかにも不満の体《てい》でいられる。やがて彼らは馬車に乗っていずれかへ出掛けて行きました。多分浅草でも見物に行ったことと見える。

 彼らが帰った後《あと》で、師匠はぷんぷん怒っていられる。
「毛唐人《けとうじん》に日本の彫刻が分るものか。気に入らないなら気に入らないで止《よ》したらよかろう。こっちで頼んでさせてもらう仕事で
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