のみました。これは、そうする方が穏当でよかったからでありました。
或る日、母が病中ながら、師匠の家へ出掛け、右の一件を話をすると、師匠は、これはといって大喜び。実は、お若のことはいろいろ心配をしておったが、そこまではちょっと気が廻らなかった。燈台元暗しとはこの事だなど、師匠はこちらからの申し込みを意外と感じてよろこんで、もし幸吉が貰ってくれる段になれば、これに越したことはないが、しかし、幸吉がお若で承知をしてくれるであろうか。元々、私は、この組み合わせは問題にしていなかったのだが……お袋さんだけの考えとあっては、幸吉の承諾がどうも危ぶまれる――など師匠の挨拶《あいさつ》。ところが、元来、当人の幸吉が承知の上で、自分で書いた筋でありますから、これほど確かなことはないので、母も、幸吉も万《ばん》異存はございますまいといって、大喜びで帰って参りました。
話は早く、早速この縁談は纏まりました。
条件は、家が貧乏であること、母親が病人であること、この二つを充分承知の上、よくやってもらいたいというのであった。娘の方で、これに不足をいう境遇ではないことはもちろんのことでありました。
そこで
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