いる。さて、自分は親が二人、まだ全く一本立ちというには至っておらぬ。しかも母は病気で、家とてもまた貧しい。こういう処へ嫁に来るには、この娘ならばちょうど好くはないか。相当苦労もしていれば、貧乏世帯を張っても、また病人の姑《しゅうとめ》に対しても相当に旨《うま》くやり切って行くかも知れない。どうもあの娘ならば、それも出来そうである――とこう私は思い立ったのであった。
 しかし、自分はそうは思っても、先方の考えはどうであるか、さっぱり分らぬ。ただ、どうも、よさそうに思われることは、お互いに何もないこと、……無財産であることが第一面倒でないから、持つとすれば自分の妻にはこの婦人がよかろうと心を定《き》めました。これは誰から勧められたのでもなく、全く自分の発案《ほつあん》であった。
 そこで私はまずこの考えを母に話しました。
 すると、母もよろこび、この縁を纏《まと》めたいという。さて、そうするとなれば、お若は、やっぱり師匠の気息《いき》の掛かっているものであるから、師匠にも一応相談をしなければならないが、そこを何んとなく、母から師匠に、母だけの考えとしてお若を貰いたい旨を話してもらうようにた
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