ないが、女の手一つでは穀屋を続けて行くことも出来ないので、店を仕舞いました。
 そこで、何んだか、おきせさんは中途半ぱな身になっているので、養女お若の遣《や》り場がないような有様になっている。それで東雲師は、俺の家へお若を伴《つ》れて来て置け、何んとか世話をしてやろうなどいっていられるのを私は知っておりましたが、何んとなく、こうした境遇に落ちて来たお若の身の上が気の毒に思われてなりませんでした。

 さて、私は、自分の境遇を考えると、前述のような羽目《はめ》になっている。どうしても、この際、家内を貰わなければならない都合になっている。といって上《うわ》ッ冠《かぶ》りで、妻の身内《みうち》の方から何かと助けてもらうような状態になることなどは好ましくない。今の自分の境遇相当、自分にもさして懸隔《けじめ》がなく、そして気立ての確《しっ》かりした、苦労に耐え得るほどの婦人があれば、それこそ、今が今といっても、家内にしても差しつかえがないと思っているところへ、ちょうど、此所《ここ》にお若という気の毒な境遇に立っている婦人を見出したのであった。その娘は、今、何処《どこ》といって行く所がなくて困って
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