すから、時々帰る。おきせさんが感心に良人の看病をしている。私も気の毒に思い、世話というほどのこともしないが何かと心を附けて上げました。それを病中の善蔵さんが大変によろこんで、私を何より頼りとしている。その中《うち》ついに善蔵さんは病|重《おも》り、気息《いき》を引き取る際《きわ》になったが、その際、病人はいろいろと世話になったことを謝し、なお、この上、自分の死後を頼むというのであるらしいが、もはや最後の際でありますから、何をいわれるか、確《しか》とは言葉も聞き取れませんが、何しろ、自分の亡き後のことなど私へたのむということであることだけは分る。妻のおきせさんも附き添い、いずれも涙の中に、病人は繰り返し私に頼む頼むと、いいおりますので、私も、病人の心を察し、快く、畏《かしこ》まりました。御心配のないようにといい慰めている中に、ついに病人はそのまま気息を引き取ってしまいました。
 それで、おきせさんは未亡人になり、養女お若は血縁の叔父《おじ》(すなわち餐父)に逝《ゆ》かれ、まことに心細いこととなりました。しかし相当遺産もあり、また里方(東雲師の家)もありますから、未亡人になっても困ることも
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