末の妹)という人があって、小舟町一丁目の穀問屋《ごくといや》金谷善蔵《かなやぜんぞう》という人の妻となっている。夫婦に子がないので、善蔵の兄に当る杉の森の稲荷地内(人形町《にんぎょうちょう》の先)に当時呉服の中買いをしていた金谷浅吉という人の娘お若というのを引き取って養女にしました。
 これはお若の父も亡くなり、間もなく母も世を去って頼《たよ》りなき孤児《みなしご》となったので、引き取り養女としたのであった(お若は金谷善蔵夫婦からは姪《めい》に当る)。
 しかるに、金谷善蔵がまた病気になったが、家は穀問屋で、御本丸へ出入りなどあり、なかなか手広《てびろ》にやってはいたが、こうした町家の常で、店は手一杯《ていっぱい》広がっていて、充分気楽に寝て保養をする場所がないので、妻のおきせさんが心配をして、堀田原にいる姉のお悦さんの許《もと》へ来て、
「姉さん、これこれの都合ゆえ、どうか、こちらは人少なで広いから、良人《うち》の保養のために一室借して下さいな」
という訳で、姉妹のことで、お悦さんが早速承知をする。善蔵夫婦がその家へ移って来て、保養をすることになったのです。
 私は自分の養家のことで
前へ 次へ
全12ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
高村 光雲 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング