牛といったものです。ロースだのヒレーだのということは知りません。母は悴《せがれ》の心尽くしですから、魚もきらいな人がこれだけは喜んで食べ、味噌《みそ》や醤油《しょうゆ》につけなどして貯《たくわ》えて食べたりしました。けれども、医師《いしゃ》にもかけましたが、やっぱり加減はよろしき方には向わず、段々大儀が増すばかり故、ついに私も意を決し、これは母のために面倒を見るものが必要であると考えて来ました。ところで、母の手助けをするには、女中《じょちゅう》を置いても事足ることではあるが、女中といってもお大層であり、また親身《しんみ》になって母に尽くすには、他人任せでは安心が出来ず、やっぱり、いっそ、これは家内を貰い、それに一任した方が一番確かであろうという考えから、私はついに家内の必要を感じ、今度は自分から妻を持とうと考え出したのでありました。

 ここで、話が八重《やえ》になって少しごたごたしますが、一通り順序を話します。
 養母の住居である堀田原《ほったわら》の家には義母お悦さんが住んでいて、時々私は其所へ帰っていた。ところで、このお悦さんの妹が前述のお勝さん、そのまた妹におきせさん(東雲師の
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