った。
私は部屋の隅の方へチョコナンと正坐《すわ》りどんなことをするかと見ておりますと、やがて、お袋さんが地《じ》を弾《ひ》き出すと、その若い男の弟子が立って踊り出した。娘のお師匠さんが扇子で手拍子を取って、何んとか声を掛けると、若い男は変な腰つき手つきをして一生懸命に踊っていたが、その状態の変テコなことといっては実に歯が浮き、見ていても顔から火が出るよう……笑止といって好《い》いか、馬鹿々々しいといって好いか、とても顔を上げて正面《まとも》に見られた図ではありません。
私は、飛んだ処へ軽はずみに飛び込んで、飛んだことをしたと、後悔の念やら、慚愧《ざんき》の冷汗やら、散々なことでありましたが、それにつけても思うには、男と生まれて、こんな馬鹿気《ばかげ》た真似《まね》の出来るものではない。一足飛びに上手《じょうず》になって、初手《しょて》から立派に踊りが出来ればとにかく、こんなことを毎晩見せられたり、やがては自分もこんな腰附き手附きをして変梃《へんてこ》極まる仕草をしなければならんとは、とても我慢の出来るわけのものではない。こんなことで時間を費やす位なら、夜業《よなべ》でもした方がよ
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