幕末維新懐古談
遊芸には縁のなかったはなし
高村光雲
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)終《す》んで
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)若者|故《ゆえ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)つき[#「つき」に傍点]
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上野の戦争が終《す》んで後私が十八、九のことであったか。徳川家に属した方の武家などは急に生活の道を失い、ちりぢりばらばらになって、いろいろな身惨《みじめ》な話などを聞きました。でも、町家の方はそうでもなく、やっぱり、夏が来れば店先へ椽台《えんだい》などを出し、涼みがてらにのんきな浮世話しなどしたもの……師匠は仕事の方はなかなかやかましかったが、気質《きだて》は至って楽天的で、物に拘泥《こうでい》しない人であり、正直、素樸《そぼく》で、上下に隔てなく、弟子たちに対しても、家内同様、友達同様のような口の利き方で、それは好人物でありました。
或る晩、家中、店先の涼み台で、大河《おおかわ》から吹く風を納《い》れて、種々無駄話をしていました折から、師匠東雲師は、私に向い、
「幸吉、お前も仕事ばかりに
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