て出掛けて行った。何んだか冷汗を掻《か》く思いで敷居を跨《また》ぎ、御免下さいといったものである。すると、応対に出たのが母親の人で、武家出のこととて、芝居にでもあるような塩梅《あんばい》で甚だつき[#「つき」に傍点]が悪い。
「何か御用でお出《い》でですか」
と、いったようなことで、ちょっと挨拶《あいさつ》に困ったが、実は踊りの稽古をしてもらいたいので出ました、と自分が直ぐ表通りの仏師屋の弟子であることを話すと、なるほど、お見掛けしたお顔だが、お見それして失礼です。しかし、こうしたお稽古はお宅のお師匠さんのお許しがなくては、後でまた面倒が起りますと、申し訳がありませんから、などなかなか固苦しい。私は師匠から勧められ許しを得ている旨を答えると、
「それでは、まあ、よろしいでしょうが、こういうことはむやみと誰でもが遊ばすことでもないから……」など物堅く、やがて、一応、娘のその踊りの師匠という人に引き合わされなどしてから、
「まあ、お遊びのつもりで、一晩、二晩は御覧なすってお出でなさい、今、お弟子の若い人が稽古をしますから」
と話している処へ、若い男の弟子が来て、そろそろ稽古が始まることにな
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