がする。ドドン、ドドン、パチパチパチという。陰気な暗い天気にこの不思議な音響が響き渡る。何んともいえない変な心持であります。私たちは二階へ上がって上野の方を見ている。音響は引っ切りなしに続いて四隣《あたり》を震動させている。其所にも此所にも家根《やね》や火の見へ上がって上野の山の方を見て何かいっている。すると間もなく、十時頃とも思う時分、上野の山の中から真黒な焔《ほのお》が巻き上がって雨気を含んだ風と一緒に渦巻いている中、それが割れると火が見えて来ました。後で、知ったことですが、これは中堂へ火が掛かったのであって、ちょうどその時戦争の酣《たけなわ》な時であったのであります。
そして、小銃は雁鍋の二階から、大砲は松坂屋から打ち込んだが、別して湯島切通《ゆしまきりどお》し、榊原《さかきばら》の下屋敷、今の岩崎の別荘の高台から、上野の山の横ッ腹へ、中堂を目標に打ち込んだ大砲が彰義隊の致命傷となったのだといいます。彰義隊は苦戦奮闘したけれども、とうとう勝てず、散々《ちりぢり》に落ちて行き、昼過ぎには戦《いくさ》が歇《や》みました。
すると、その戦後の状態がまた大変で、三枚橋の辺《あたり》
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