は驚いた。ちっともそんなことは知らなかった。じゃあこうしちゃあいられないな」
と、急に大騒ぎをやり出しました。後で聞くと、半さんの妻君が少しお転婆《てんば》で、長屋中の憎まれ者になっていたため、当日の騒ぎのあることを知らせずに、近所の人たちは各自に立ち退《の》いたのだそうですが、世にも暢気な人があればあるものです。
 私と松どんとは、半さんの家《うち》の寝道具を背負い、もう一度出直して来ることをいい置き、元の道を通り抜けて、一旦、師匠の家に帰り、様子を話し、再び取って返して来ましたが、その時は以前よりも武士《さむらい》の数もさらに増し、シュッシュッという音も激しくなり、抜き身の槍の穂先がどんよりした大空に凄《すご》く光り、状態甚だ険悪であるから、とても近寄れそうにもありません。ソレ弾丸《だま》でも食って怪我《けが》をしては大変と松とも話し、一緒に家へ帰って、師匠に市中の光景などを手真似《てまね》で話をしておりますと、ドドーン/\/\という恐ろしい音響《おと》が上野の方で鳴り出しました。それは大砲の音である。すると、また、パチパチ、パチパチとまるで仲店で弾《はじ》け豆が走っているような音
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