幕末維新懐古談
上野戦争当時のことなど
高村光雲
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)湧《わ》いて
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)慶応四年|辰年《たつどし》の
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)いくさ[#「いくさ」に傍点]
−−
慶応四年|辰年《たつどし》の五月十五日――私の十七の時、上野の戦争がありました。
今日から考えて見ると、徳川様のあの大身代が揺ぎ出して、とうとう傾いてしまった時であった。その時、何もかも一緒にいろいろなことが湧《わ》いて来る。先ほど話した通り、四時の循環なども、ずっと変調で、天候も不順、米も不作、春早々より雨降り続き、三、四月頃もまるで梅雨《つゆ》の如く、びしょびしょと毎日の雨で、江戸の市中は到《いた》る処、溝渠《どぶ》が開き、特に、下谷《したや》からかけ、根岸《ねぎし》、上野|界隈《かいわい》の低地は水が附いて脛《すね》を没し、往来も容易でないという有様であったが、その五月十五日もやっぱりびしょびしょやっている。たまに霽《は》れたかと思えば曇《くも》り、むらにぱらぱらと降って
次へ
全13ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
高村 光雲 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング