、「お父《とう》さん、何か拵《こしら》えておくれ、私《わたし》が売って見るから」というので、子供ながら手伝い、或る玩具《おもちゃ》を製《こしら》え、それを小風呂敷《こぶろしき》に包んで縁日へ出て売り初めたのです。
 そのおもちゃ[#「おもちゃ」に傍点]というのは、今では見掛けもしませんが、薄い板を台にして、それに小さな梯子《はしご》が掛かり、梯子の上で、人形《にんぎょう》の火消しが鳶口《とびぐち》などを振り上げたり、火の見をしていたりしている形であります。それがチョット思いつきで人目を惹《ひ》き、子供が非常にほしがるので、相当商売になりました。で、細々《ほそぼそ》ながら、まずどうにかやって行く……その内、縁日の商いの道が分るにつけ、いろいろまた親子で工夫をして、一生懸命に働いては、大勢の一家を子供の腕一本でやって行きました。
 こういう有様であるから、とても普通《なみ》の小供のように一通りの職業を習得するは思いも寄らず、糊口《くちすぎ》をすることが関《せき》の山《やま》でありました。その中《うち》、兼松も段々人となり、妻をも迎えましたが相更《あいかわ》らず親をば大切にして、孝行|息子《
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