らむずらむ。雲は寄る寄る崖《がけ》を噛《か》んで、刎《は》ね返されたる倒波《ローラア》の如きあり、その下層地平線に触《ふ》れて、波長を減じたるため、上層と擦《さつ》して白波《サアフ》の泡《あは》立つごときあり、之《これ》を照らすにかの晃々《くわう/\》たる大月あり、その光被するところ、総《す》べてを化石となす、試《こゝろみ》に我が手を挙《あ》ぐるに、晶《あきらけ》きこと寒水石を彫《ゑ》り成したる如し、我が立てる劒ヶ峰より一歩の下、窈然《えうぜん》として内院の大窖《たいかう》あり、むかし火を噴《ふ》きたるところ、今神仙の噫気《あいき》を秘蔵するか、かゝる明夜に、靉靆《あいたい》として立ち昇る白気こそあれ、何物たるかを端知せむと欲して、袖庇《しうひ》に耐風マッチを擦《さつ》するも、全く用を成さず、試に拳石を転ずるに、鳴鏑《めいてき》の如く尖《とが》りたる声ありて、奈落《ならく》に通ず、立つこと久しうして、我が五躰《ごたい》は、悉《こと/″\》く銀の鍼線《しんせん》を浴び、自ら駭《おどろ》くらく、水精|姑《しばら》く人と仮幻《かげん》したるにあらざるかと、げに呼吸器の外に人間の物、我にあらざ
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