に遇《あ》ふ、天そゝり立つ大嶽とは是《こ》れか、眼前三四尺のところより胴切に遇ひて、殆《ほと》んど山の全体なるかを想はしむ、下界|屡《しばし》ば見るところの井桁《ゐげた》ほどなる雲の穴より或《あるい》は皺《しわ》を延ばし、或は畳《たゝ》めるは、応《まさ》にこの時なるなからむや、今は山と、人と、石室と、地衣植物と、尽《じん》天地を霧の小壺《せうこ》に蔵せられて、混茫《こんばう》一切を弁《べん》ぜず、登山の騎客は悉《こと/″\》く二合二勺にて馬を下る。
二勺より路は黒鉄《くろがね》を鍛へたる如く、天の一方より急斜して、爛沙《らんさ》、焦石《せうせき》、截々《せつ/\》、風の噪《さわ》ぐ音して人と伴ひ落下す、偶《たまた》ま雲を破りて額上|微《かす》かに見るところの宝永山の赭土《あかつち》より、冷乳の缸《かめ》を傾けたる如く、大霧を揺《ゆ》るよと見る間に、急瀬《きふらい》上下に乱流する如くなりて、中霄《ちゆうせう》に溢《あふ》れ、片々|団々《だん/\》、※[#「てへん+止」、第3水準1−84−71]《さか》れて飛んで細かく分裂するや、シヤボン球の如き小薄膜となり、球々相|摩擦《まさつ》して、
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