で落ちている、草ばかりではない、小さい切石や、角石が隠れていて、踵《かかと》でも足の指でも噛まれて、傷だらけになる、信濃金梅《しなのきんばい》の花は、黄色な珠を駢《なら》べて、絶頂から裾までを埋めた急斜の、大黄原を作っている、稀に女宝千鳥や、黒百合も交っているが、このくらい信濃金梅の盛《さかん》に団簇《だんそう》したところは、外の高山では、見たことがない。
白樺の痩せた稚い樹が出て来て、その中から山桜の花が、雪のように咲いている、四月の色は北岳の北の尾根から、信濃金梅の傾斜を伝わって、この森林にまで、流れ込んでいる。
次第に喬木の森林に入った、白く光る朽木は、悪草の臭いや、饐《す》えたような地衣の匂いの中に立ち腐れになっている、うっかり手が触れると、海鼠《なまこ》の肌のような滑らかで、悚然《ぞっ》とさせる、毒蚋《どくぶと》が、人々の肩から上を、空気のように離れずにめぐっている、誰も螫《さ》されない人はない、大樺池《おおかんばいけ》を直ぐ眼の下に見て、ひた下《お》りに下る。
森がちょっと途切れて、また草原になる、雪の塊が方々に消え残っている、大樺池は、この緑の草原の中で、針葉樹や白
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