ければ、暗礁のような岩角が立っていて、高山植物が点じている、なお北岳を見ていると、東の谷、西の谷、北の谷から霧が吹いて来て、その裾は深谷の方に布《し》きながら、頂上を匝《め》ぐって、渦を巻いている。西北の仙丈岳を前衛として、駒ヶ岳、鋸岳、木曾駒山脈の切れ間に谷が多いので、このように水蒸気も多く、そうしてこの山を目がけて、吹きつけるのであろう。
 大雪田の石の峰を超えて、三角点の下に来た、木曾山脈を西に控えて、その間の高原を、天竜川が白く流れ、仙丈岳は渓谷を隔てて、その頂上の、噴火口と擬《まが》いそうな欠けたところが、大屋根の破風《はふ》のように聳《そび》えて、霧を吐く窓になっている。駒ヶ岳の白い頭は、白崩《しろくずれ》山の名を空しくせずに、白く禿《は》げて光っている。
 間の岳の峰から、北岳まで尾根が繋《つな》がっていることは、ここで初めて確かめられた、我が三角測量標の下には、窪地があって、そこには雪田が白く塊まっている、一丁ほども歩いたかと思うと、また雪田がある、築土《ついじ》の塀の蔭に、消え残った春の雪のようだが、分量は遥かに多い。
 石の壁は南方から連なって、人の歩く路を窄《せば
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