えて、ひとり高く半天に立っている。
石の急壁を登りかけていると、雷鳥が一羽、ちょこちょこと前を歩いている、晃平が、狙いをつけて一発放したが、禽《とり》は横に逸《そ》れて、截《き》られた羽が、動揺した空気に白く舞った、一行手取りにするつもりで、暫く追いかけて見たが、掌中の物にはならなかった。
疲労の足を引き擦《ず》って、石壁の上に登りついたとき、眼は先ず晶々|粲々《さんさん》として、碧空に輝きわたる大雪田、海抜三千百八十九|米突《メートル》の高頂から放射して、細胞のような小粒の雪が、半ば結晶し、半ば融けて、大気を含んだ、透明の泡が、岩の影に紫色を翳《かざ》しているのに、眩《まば》ゆくなるばかりに駭《おどろ》いた、南方八月の雪! 白峰をして白からしめた雪! 我ら一行の手は、初めてこの秘められたる、白い肌に触れたのである。
羚羊・長之助草(北岳の絶巓に登る記)
それから尾根伝いに、間の岳の絶頂まで這い上り、三等三角測量標の下に立った、北西に駒ヶ岳(甲斐)の白い頭が、眼前の鋭い三稜形をしている北岳に、挟みつけられて見える、霧が来て散った。
この附近は偃松《はいまつ》の原でな
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