ス(深山薄雪草《みやまうすゆきそう》)は銀白の柔毛《にこげ》を簇《むら》がらせて、同族の高根薄雪草《たかねうすゆきそう》や、または赤紫色の濃い芹葉塩釜《せりばしおがま》、四葉塩釜《よつばしおがま》などと交って、乾燥した礫《こいし》だらけの窪地《くぼち》に美しい色彩を流している。
 振り返れば、間の岳(赤石山脈)や、悪沢岳の間から、赤石山が見える、そうして千枚沢の一支脈は、兀々《ごつごつ》した石の翼をひろげて、自分たちの一行を、遥かに包もうとしている。
 東へ方向を取って、また北へと折れる、右にも左にも、雪田がある、ここから近く見た間の岳は、破れた石を以て、肉としている、おそらくその石を悉《ことごと》く除けば、間の岳は零《ゼロ》になるであろう、その石だ、老人の皺のように山の膚に筋を漲《みなぎ》らせているのも、古衣の襞《ひだ》のように、スレスレに切れたり、ボロボロに崩れたりしているのも、この石だ、それを針線《はりがね》のように、偃松が幾箇処も縫っている。
 急峻な登りを行く、雲は赤石山を包み隠して、西南にその連嶺の西河内岳の一角を現わした、さすがに富士山のみは、深くまつわる山を踏み踰《こ》
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