た空の下で、互いにその何百万年来の、荒《すさ》んだ顔を見合せた、今朝になって始めて見た顔だ、或るものは牛乳の皮のように、凝《こお》った雪を被《かず》いている、或るものは細長い雪の紐《ひも》で、腹の中を結えている、そうして尖鋭の岩を歯のように黒く露わして、ニッとうす気味悪く笑っている。
目的《めあて》は間の岳にある、残んの雪は、足許の岩壁に白い斑《ぶち》を入れている、偃松はその間に寸青を点じている、東天の富士山を始めて分明に見ながら、岩や松を踏み越えて、下りると、誰が寝泊したのか、野営地の跡が、二カ所あった、石を畳み上げて、竈《かまど》が拵えてあるので、それと知れたのだ、偃松の薪《たきぎ》が、半分焦げて、二、三本転がっている。
尾根を伝わって、東に富士山、西に木曾の御嶽を見ながら行くと、また野営地があった、そこはちょっとした草原になっていた、雪解の水で湿《しめ》っているところへ、信濃金梅《しなのきんばい》の、黄色な花の大輪が、春の野に見る蒲公英《たんぽぽ》のように咲いている、アルプスの高山植物を、代表しているところから、アルプスの旅客が、必ず土産に持ちかえるものにしてあるエーデルワイ
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